きら人 vol. 11 藤原香奈 さん

エール今月のきら人

水彩画は、こんなに美しい絵画だったのでしょうか。藤原香奈さんの描く植物の絵をじっと見ていると、ふっと風が立ち、香りまで漂ってきそうです。それほど描く世界は淡く、深く…まるで、画家本人のように。

 藤原香奈さんの周りは、時間がゆっくり流れています。窓から入る風も、部屋の空気も、庭の花も、そばにいる猫までもが、時間に追われるわたしたちとはちがう時空を生きているかのようです。その時空を美しい色で描きだし、見ている人の時間も一瞬、止めてしまう。藤原香奈さんの描く水彩画は、そんな静かな引力を持っています。
 物心が付いた頃から、呼吸をするように絵を描いていたという彼女は、水彩画家を目指したのではなく、そうなるように誘導されてきた、といった方がいいかもしれません。
 教育学部の美術専攻だった大学時代。心のどこかで水彩画に惹かれていたものの、油絵を指導する教授しかいないこともあり油絵を描き続けていました。だけど、油絵は絵の具を何度も重ねて描くため、手の力を必要とします。ましてや大きなキャンバスを抱えての移動。それが重なり、絵筆を持つ腕が腱鞘炎になってしまったのです。なりゆきとは言え、自然に切り替えたのが、力も入れずにすーっと描ける水彩画でした。水彩画を描く自分に心も体も馴染んで、それが自然であるように感じたといいます。そして、卒業後。勤めながら趣味で水彩画を描き、個展活動をやっていく道を選択します。しかし、それさえも軌道修正させられるかのように、転機はやってきます。
 健康食品を販売していたお店にたまたまやってきたのが、いつも個展を開かせもらっていたギャラリーのオーナー。販売店にいる彼女を見るなり、「香奈ちゃんなにやってるの?早く水彩画に帰りなさい。」と叱咤激励。本物を世に出し続けてきた画廊のプロが、しっかりと見抜いていた香奈さんの才能でした。
 「水彩画一本のプロの道を歩むため、背中を押された気がしたんです」プロの道はきついけれど、もう、これで生きていこうと決めれたといいます。
 香奈さんが描くものは日常の風景。縁があって目に止まったものたちです。時には一日中でも描く対象をじっと見ていることも。そして、自分の中に何かを感じた時、絵筆を持ち、一気に紙に向かうのです。その時の色さえ迷わずに、すでに完成を知っているかのように描き続けるのだそうです。植物だけでなく、雨も光も影も匂いも風も…香奈さんの心の目に広がる小宇宙、そのすべてを画用紙に写し出すように。
 「植物もそこに在るだけでなく、すべては一つにつながっているのだと思うんです。そのつながりを描くことで、今では絵を通して、たくさんの人ともつながっているんです」。
水彩画家/藤原香奈さん

a.油絵と違って水彩画は重ね塗りができない。一筆が一発勝負。鉛筆で下書きをしている頃から色は決まっているのだという。「何気に咲いている1輪を主役にしてあげたくて」自然が多い家周辺を散歩して素材に出会うことも。 b.アトリエは実家の一室。一番の応援者で、理解者はご両親。「それだけでもわたしは恵まれていると思います」と香奈さん。 c.d.家に居付いた猫と一緒に。最近は猫のいる風景を描くことも。猫好きな仲間たちと猫を追っかけることで知らない風景や土地に会うのが楽しいそう e.f.以前の描いていた香奈さんの絵(左)から、今(右)はより透明感と拡がりが出てきた。きっかけは「運動」。ジムに行き、人とつながることで絵も包み込むような空気感が出てきたのだという。


きら人vol11 水彩画家/藤原香奈
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